2024年5月15日水曜日
糖尿病について(2型糖尿病の生活習慣病としての側面や合併症の問題)
2024年3月23日土曜日
統合失調症について
統合失調症の歴史、原因、症状、治療法等について以下述べる。
統合失調症は脳機能が障害され普段とは異なった思考や行動が現れてくる原因不明の疾患で、かつては精神分裂病と呼ばれていた。クレペリンが1899年に提唱した早発性痴呆を基礎に、1911年ブロイラーにより、精神活動の各要素間のつながりが失われているという意味で精神分裂病とつけられた。日本では精神分裂病という名称にマイナスのイメージを抱かせることから、2002年、統合失調症に変更された。名称が変更されたことで、患者の社会参加に良い影響を及ぼすことが期待されている。
統合失調症の生涯有病率は0.7~0.8%。主に10代後半から20代前半に発症し、男女差はない。症状は幻想や妄想、思考障害、まとまりのない会話や行動などがみられる陽性症状と、感情の平板化、意欲低下、自閉などの陰性症状とに大別できる。主に急性期に現れるのが陽性症状であり、慢性期には主に陰性症状が現れる。発症前、不安や緊張、不眠、性格の変化、倦怠感などの前駆症状が現れるケースもある。
また統合失調症の病型は、解体型、緊張型、妄想型の3つに分類されていたが、DSM-5、ICD-11では削除されている。
原因として有力な説に、ドーパミンの過剰な分泌により神経細胞の活動が活発になることが原因だとするドーパミン過剰仮説がある。他に、胎児期から幼少期にかけて脳の発達に異常があることが原因であるとする神経発達障害仮説、脳の脆弱性と社会的ストレスによって発症するとする脆弱性-ストレスモデルがある。さらにGABAやグルタミン酸などの活動が弱まることで発症する説など他にも多くの仮説が存在する。最近では「スパインの密度や大きさが変わること」1)が原因だとする仮説も出てきた。これらの仮説はどれかが正しいというものではなく、恐らく複数の原因によって発症すると考えられている。
統合失調症と診断するには、ある程度の期間、症状が持続していることが必要とされている。例えばICD-10では、症状の持続期間が1か月未満の場合は、急性統合失調症様精神病性障害との診断となる。
またDSM-5では統合失調症にスペクトラムの考え方が導入され、診断は五つの中核症状(①妄想、②幻覚、③まとまりのない会話、④ひどくまとまりのないまたは緊張病性の行動、⑤陰性症状)の有無、強さ、持続期間によって行うとされている。
統合失調症には上記のような操作的診断はあるが、生物学的検査所見で診断を行う術はない。症状もほかの疾患に見られるものが多いため、従来診断であるブロイラーの四つの基本症状や、シュナイダーが提案した一級症状は現在でも参考にされている。
治療は、薬物療法、精神療法、家族支援、精神科リハビリテーションが基本で、中心となるのは薬物療法である。
妄想や幻覚など陽性症状に効果がある定型抗精神病薬(従来型)が使用されてきたが、副作用の錐体外路症状が問題となっている。そこで最近は副作用が少なく陰性症状にも効果がみられる非定型抗精神病薬(新規)も使用されるようになった。
家族支援は、感情表出など患者に対する家族対応の改善や理解増進を援助するものである。また、統合失調症では残存症状や後遺症により生活障害が残ることがある。再発することも珍しくはない。精神科リハビリテーションは生活障害を改善することを目標としており、家族支援とともに再発予防において非常に重要である。
おわりに
筆者は日々の業務を通じて、統合失調症患者を支援する機会があるが、支援開始当初は、多くの人が自分の病状については語ろうとしない。後に理由を聞くと「信じてもらえないと思った」と答える人が殆どである。統合失調症に限ったことではないだろうが、支援は共感を持って接することが重要であることを、自戒の念を込め最後に述べておきたい。
[引用文献]
1)林(高木)朗子(著)『「心の病」の脳科学』講談社 2023年 P.30
[参考文献]
1)一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『1精神医学と精神医療』中央法規出版 2021年
2)村井俊哉(著)『統合失調症』岩波書店 2019年
3)林(高木)朗子、加藤忠史(編)『「心の病」の脳科学』講談社 2023年
2024年3月20日水曜日
学習理論について
学習とは「同じような経験を繰り返すことにより生ずる比較的永続的な行動の変容」1)のことであり、学習の基本的な様式である「条件づけ」には、古典的条件づけと、オペラント条件づけがある。
パブロフの実験では、実験対象となった犬はベルが鳴るといった直接的には関係のない刺激によって条件づけられると餌が眼前にない状態でも唾液を流すようになった。これが古典的条件づけであり、無条件刺激(餌がある状況)に対して無条件反応(唾液を流す)のと同様に、条件刺激(ベルの音)に対しても同じ条件反応が生じるという学習様式である。
このパブロフの犬の実験を人間に適用できることを証明しようとしたものに、ワトソンが行ったリトルアルバート実験がある。9か月の乳児リトルアルバートを実験対象としたもので、アルバートが白いネズミを見たら大きな音を与え続けた。するとアルバートは白いネズミやそれに似たものを見ても恐怖を示すようになった。この現象は恐怖条件づけとも呼ばれるものである。
これに対してスキナーは、スキナーの箱と呼ばれる装置を使った研究でオペランド行動(オペラント条件づけ)を発見した。スキナーの箱の中にはレバーがあり、ブザーが鳴った時にレバーを押すと餌が出てくる仕組みとなっている。その箱に空腹のネズミをいれ、ネズミが偶然レバーを押すと餌が出てくる。試行錯誤を繰り返すうち、ネズミはレバーを押すと餌が出てくることを学習した。この学習をスキナーはオペラント条件付け(道具的条件づけ)とした。この研究は先行事象(ブザーが鳴る)、行動(レバーを押す)、後続事象(餌が出てくる)という三項随伴性に着目して行われたものである。
さらにその研究では、行動は4つのパターンに分類されるとした。ある行動をした結果何かが生じたり増えたりすることでその行動の生起頻度が上がることを正の強化、行動の結果何かがなくなる或いは減少することでその行動の生起頻度が上がることを負の強化とされ、生起頻度が下がる場合をそれぞれ、正の弱化、負の弱化とされた。強化や弱化は、反応と結果との関係(行動随伴性)を表すものである。
スキナーよりも前、問題解決の場面において失敗を繰り返すうちに解決が生じると考えたのがソーンダイクであり、問題箱と呼ばれる装置を使った実験を行った。問題箱の外に餌を置き、箱の中に猫などの動物をいれる。動物は試行錯誤の中で最初は偶然外に出られるが、この経験を繰り返すことで外に出る術を学習し箱から出るまでの時間が短くなるというものである。ソーンダイクはこの実験の結果試行錯誤学習を提唱。また試行錯誤の結果が好ましくない場合は、その状況との結びつきを弱めるという効果の法則を提唱している。
これに対しケーラーは、課題状況全体に対する目標と手段関係の洞察や、解決への見通しなど内的な思考過程を経て問題解決を見出しているとする洞察学習を提唱した。よく知られた研究にサルによる実験がある。棒や箱など、道具を使わなければバナナをとることが出来ない状況で、サルが状況を把握し洞察することで適切な行動をとっていることを観察したものである。
バンデューラによって提唱された社会的学習は、観察学習、またはモデリングとも呼ばれるもので、試行錯誤のように経験して得るものではなく、他者の行動を観察、模倣することでその行動を獲得する学習様式である。観察した行動の結果次第では、自身の行動頻度が変化することは代理強化と言われる。
・終わりに
筆者はボランティアでパラスポーツ指導を行っている。ここまで述べてきたことを重ねてみると、パラスポーツの現場は、洞察、観察、模倣、そして試行錯誤の繰り返しであることに気づかされる。どれかが欠けても上達(学習)は見込めず、学習とは、まさにこの連続であるのだと実感するものである。
[引用文献]
1)福祉教育カレッジ(編)『社会福祉用語辞典第2版』エムスリーエデュケーション 2017年 P.63
[参考文献]
・福祉臨床シリーズ編集委員会(編)『心理学と心理的支援』弘文堂 2022年
・ジョエル・レビー著『心理学の基礎講座』ニュートンプレス 2020年