2024年4月8日月曜日

コーヒーの花

先日、勤務する施設の農園で作業した。
コーヒーを栽培しているのだが、もうすぐ花が咲きそうだった。
コーヒーの蕾
植物は不思議だ。
芽吹く、咲く、枯れる、散る…どの行為も、人を魅了する。

2024年4月5日金曜日

津波警報による避難

昨日の朝、台湾で大きな地震があり、私が住んでいる沖縄本島で津波警報が出た。
警報が出たのは私が福祉施設に出勤した頃だった。
その後、幾人かの利用者がやってきた。
利用者を引率し、近くの避難場所まで歩く途中、既に車の大渋滞が始まっていた。
交通規則を守らない車も多く見受けられた。
いざとなったら、冷静さを失い、我先へと逃げ出す人もいる。
狭い島、車社会、考えさせられた避難であった。
宜野湾市内の様子
警報解除後は下りが渋滞していた
また自治体からは、SNSを通じ避難情報などが届いていたが、利用者の中には知的障害の人もおり、漢字だらけのメッセージを読めずに困惑していた。
スマートフォンに届く緊急速報も同様であった。こうしたところにもアクセシビリティの必要性を痛感した。
特に日本においては、防災の観点から、地域福祉の充実を計るべきではないだろうか。

2024年3月23日土曜日

イギリスの貧困対策の歴史換とナショナルミニマム

 本稿ではイギリスにおける貧困対策の歴史を整理し、貧困認識の転換とナショナルミニマムの意義について論じる。

 16世紀、宗教改革などにより貧民や浮浪者が増加し社会不安が高まる中、治安維持を目的としてエリザベス救貧法が1601年に成立する。貧民を無能貧民、有能貧民、扶養する者がいない児童に分け、有能貧民は懲治院に収容され労役場での強制労働が課せられた。1722年には労役場テスト法が制定され、貧困者が抑圧的に管理される状況が続いた。

 18世紀後期、1782年にギルバート法が制定。労働力のある貧民は居宅で仕事を与える院外救済が行われた。1795年、スピーナムランド制度が導入され、生活費の基準に達していない家庭に差額を支給した。これらは人道的な側面もあったが、労働意欲の低下(貧困の罠)や、納税者が貧困化するなどの問題が生じた。

 同時期、古典派経済学が隆盛を迎える。スミスは「国富論」で「神の見えざる手」による私利と公益の一致を説き、国政による市民生活への干渉は最小限にすべきとした。マルサスは「人口論」で、人口抑制が有効な貧困対策であると主張、貧困救済は人口増加に繋がるとして否定した。福祉の費用は削減され、救済水準全国統一、院外救済の全廃、劣等処遇の原則を特徴とする新救貧法が1834年に制定された。

 その後、政府による対応の不十分さを補うように慈善団体による活動が盛んになる。1869年に慈善組織協会が設立され、救済に値する貧困者と救済に値しない貧困者を区別し、前者のみに友愛訪問を行った。一方、デニソンが創始したセツルメント思想は、貧困は個人の問題ではなく社会の問題であり、政策によって解決できるとするものであった。セツルメント運動は1884年にトインビーホールが設立されたのをきっかけに広まっていく。

 19世紀末、貧困の原因や状況を客観的に分析しようとする動きがあった。ブースの調査、ラウントリーの調査が代表的である。ブースはロンドンで貧困調査を行い、貧困線や貧困地図を導入、市民の3割超が貧困線以下であることを示した。ラウントリーはヨーク市で調査を行い、栄養基準に基づいた貧困線を設定。第一次貧困と第二次貧困に分けて分析し、約3割の市民が貧困線以下、約1割が極貧状態にあることを示した。この2つの調査は、貧困は社会自体に原因があることを証明するもので、貧困認識の転換に大きな影響を与えた。

 20世紀初め、第一次大戦や世界恐慌により社会不安が高まる。これに対応し政府は社会保障制度の拡充を進め1911年に国民保険法が制定された。この法はウェッブ夫妻などの影響を受けたものである。彼らは1909年の「少数派報告」でナショナルミニマムという概念を主張する。ウェッブ夫妻は1897年の「産業民主制論」で、救貧法の解体と、国家が国民に対し、所得、教育、衛生、余暇など生活の最低限度(最低水準)を保障するというナショナルミニマムの概念を提唱している。

 1942年、第二次世界大戦中にベヴァリッジ報告が発表される。ベヴァリッジは、ナショナルミニマムの概念を提唱し、貧困、疾病、無知、不潔、怠惰という「5つの悪」に対抗するため、社会保険制度や公的扶助制度を整備することを勧告した。この報告書は大きな反響を呼び、戦後の労働党政権によって実現された。この報告書を契機に、各国で「ゆりかごから墓場まで」を保障する福祉制度が追求されるようになったのである。

 以上のように、イギリスの貧困対策の歴史は、貧困認識の転換の歴史であり、ナショナルミニマムには貧困者の尊厳と権利を保障するとともに、社会的包摂と経済的発展を促進するという意義があると言える。

[参考文献]
1)福田幸夫・長岩嘉文(編)『社会福祉の原理と政策』弘文堂 2021年
2)高島善哉(著)『アダム・スミス』岩波書店 1968年
3)長谷川貴彦(著)『イギリス現代史』岩波書店 2017年

イギリス現代史
4)厚生労働省."ナショナルミニマムに関する議論の参考資料". 第2回ナショナルミニマム研究会. 2009年12月16日 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000378g-img/2r985200000037cu.pdf.(2023年10月11日閲覧)

ワークライフ・バランスの重要性と労働保険制度

 現代の日本は少子高齢化の社会である。労働力減少と経済力低下が懸念されており、多様な人材による生産性の高い働き方が求められている。そうした中、内閣府は2007年、仕事と生活の調和憲章を定めた。2018年には働き方改革関連法案が成立し、ワークライフバランスの重要性は益々高まっている。そこで、その重要性と、関連性のある労働保険の特徴と役割について以下述べる。

 ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和を図ることで、個人や家族、社会全体の幸福や経済的な発展を目指す考え方である。
 その利点と重要性は、個人にとっては、希望するバランスの実現により心身ともに健康であるとともに、子育てや介護など仕事以外の活動に時間を割くことができることが挙げられる。企業や組織にとっては、労働者の仕事への意欲や満足度が高まることで、人材の確保や育成、離職率低下への効果、生産性や競争力を向上させることが期待される。こうしたことから、ワークライフバランスの推進は経済社会の活力向上につながると言える。

 労働保険は社会保険制度の一つで、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険を総称したものである。どちらも事業主や政府も含めた社会全体で労働者を支える仕組みであり、労働者が安心して働くことができる環境を整えることを目的としている。
 労災保険は、労働者が業務上や通勤中に負傷や病気になった場合や死亡した場合、被災労働者や遺族に医療費や補償金などの給付を行う制度である。業務上の場合を業務災害、通勤中の場合は通勤災害と呼ばれる。
 保険者は政府で、事務を行うのは都道府県労働局と労働基準監督署である。雇用形態を問わず労使関係にある労働者全員が適応対象である。また、個人事業の事業主も任意加入が出来る。
 保険料は全額事業主負担である。保険料率は業種ごとに過去の災害発生率等を考慮し定められ、保険料が滞納されていた場合でも労働者は給付を受けることが出来る。一方、労働者が故意に事故を生じさせた等、使用者に賠償責任がない場合、給付は行われない。
 給付の種類は、療育給付、休業給付、障害年金、障害一時金、遺族年金、遺族一時金、葬祭料、傷病年金、介護給付がある。業務災害の場合は、葬祭料を除き「補償」の2文字がそれぞれ名称の間に入る(例:介護給付⇒介護保障給付)。また、複数業務要因災害の場合では、それぞれの名称の前に「複数事業労働者」が入る。

 雇用保険は、労働者が失業や育児・介護休業などで収入が減少した場合や、教育訓練を受けた際、生活や雇用の安定と就職の促進を図るために失業手当や訓練給付などの給付を行う制度である。求職者給付、就職促進給付、雇用継続給付、教育訓練給付からなる失業等給付、2020年より失業等給付より独立して位置づけられた育児休業給付、事業主に助成金や補助金などを支給することで雇用の創出や継続を支援する雇用保険二事業(雇用安定事業と能力開発事業)がある。
 保険者は政府で、ハローワークが手続きを行う。
 保険料は労使折半であるが、雇用保険二事業は全額事業主の負担である。
 求職者給付の基本手当の受給資格者は、被保険者が失業した日以前の2年間に12か月以上の被保険者期間がある者である。求職者給付には他に、高齢者求職者給付、技能習得手当・寄宿手当、傷病手当がある。
 育児休業給付には、2022年10月、改正育児介護休業法が施工され、出生時育児休業が実施されることに伴い出生時育児休業給付金が新設され、育児と仕事の両立への貢献が期待されている。

おわりに
 上述のように、ワークライフバランスと労働保険は、それぞれ異なる目的と内容を持っているが、共通して労働者の福祉や雇用の安定を目指している。故に両者は一体的に推進する必要性がある。政府による制度の整備や改善は勿論、企業や個人においても積極的な参加が求められるのである。

[参考文献]

・阿部裕二・熊沢由美(編著)『社会保障』弘文堂 2023年
・平澤克彦・中村艶子(編著)『ワークライフ・インテグレーション』ミネルヴァ書房 2021年

ワークライフ・インテグレーション
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」". https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/pdf/charter.pdf
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "ワーク・ライフ・バランスの必要性について". 第1回「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会 2007年8月31日 https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/change/k_1/pdf/s6.pdf.(2007年8月31日)
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "「ワーク・ライフ・バランス」の定義". 第2回「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会 2007年9月26日 https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/change/k_2/pdf/sk1.pdf.(2007年9月26日)
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "ワーク・ライフ・バランス行動指針に盛り込むべき事項". 第3回「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会 2007年10月2日 https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/change/k_3/pdf/s2.pdf.(2007年10月2日)

地域福祉の理論

 英国で始まったコミュニティケア、米国で発展したコミュニティオーガニゼーションは日本の地域福祉の理論や政策に多大な影響を与えている。そこで英米の地域福祉の展開を述べた後、日本の地域福祉の代表的な学説について整理し、最後に意見を述べる。

・英米における展開
 地域福祉の起源として、英国の慈善組織協会(COS)とセツルメント運動が挙げられる。COSは1869年に設立され、貧困者に対して個別的な調査と援助を行うことで自立を促す考え方を持っており、後のソーシャルワーク形成に大きな影響を与えた。一方セツルメント運動は、貧困地域に住み住民と共に生活し、教育や文化活動を通じてコミュニティの向上を目指すという考え方である。これらの運動は地域福祉の基礎となるコミュニティワークの原型と言える。また1970年以前にコミュニティケアの発展に影響を与えた報告書としては、すべての国民に最低限度の生活を保障することが強調され、社会保障制度の基礎となったベヴァリッジ報告、コミュニティケアを地方自治体の社会サービス部が統合的に行うことを提言したシーボーム報告がある。
 米国の地域福祉もセツルメント活動が出発点であり、ケースワーク・グループワークという援助技法を開発、発展させてゆく。地域福祉に関する理論として、地域社会の問題を住民自身が参加し解決することを援助するコミュニティオーガニゼーションがあり、その概念は日本の地域福祉の概念形成に大きく影響している。

・日本の主な学説
 日本ではまず岡村重夫によって地域福祉の概念が形成された。岡村は1970年に「地域福祉研究」、1974年に「地域福祉論」を発表。地域福祉の構成要件をコミュニティケア、地域組織化、福祉組織化、予防的社会福祉に分類し、福祉組織活動の目的は福祉コミュニティづくりであるとした。
 右田紀久恵は、1973年に「現代の地域福祉」を発表。地域福祉の基本的な考え方として生活原則、権利原則、住民主体原則を提唱し、1993年には自治と自治制を構想した「自治型地域福祉の展開」を著した。
 1979年、全国社会福祉協議会発行の「在宅福祉サービスの戦略」では在宅福祉サービスという新たな概念が登場した。三浦文夫はこの中で、貨幣的ニーズに代わり非貨幣的ニーズが主要な課題となっていることを指摘する。同時期、永田幹夫は「地域福祉組織論」を発表。地域福祉の概念として在宅福祉サービス、環境改善サービス、組織活動を示した。
 主な学説は他に、ボランティアと福祉の思想を説いた阿部志郎、井岡勉の地域生活課題への社会的対策、大橋兼策の参加型・住民主体型地域福祉、川村匡由の地域福祉とソーシャルガバナンスなどが挙げられる。
 岡本栄一は「場-主体の地域福祉論」で、地域福祉論を4つの志向に整理できるとしている。上述した学説をその4の志向に整理すると、岡村と阿部は福祉コミュニティ志向であり、大橋は住民の主体形成志向、井岡と右田は政策・制度志向、永田と三浦は在宅福祉志向と整理することが出来る。
 なお川村の提唱する地域福祉とソーシャルガバナンスは、地域住民、行政、専門家などが多様な価値観や利害を調整しながら、共通の目標や規範を形成し協力して福祉サービスを提供する仕組みの中で住民の自立や参加や連帯が促進されるというものであり、4つの志向のミックス型であると言える。

・おわりに
 地域福祉は単なるサービス提供ではなく、住民参加や協働の過程が重要であるという点が長い歴史の中で一貫されている。筆者はこれに強く共感する。
 また地域福祉は、常に変化する社会状況に応じて柔軟に対応する必要があるということにも注意しなければならない。そのためには地域福祉の理論と向き合うこと、つまり原点に立ち返ることが必要であり、それはまた地域福祉の理念や価値観を問い直す機会を与えてくれるものと筆者は考えるものである。

[参考文献]
1)川村匡由(編著)『地域福祉と包括的支援体制』ミネルヴァ書房 2021年
2)稲葉一洋(著)『地域福祉の発展と構造』学文社 2016年
3)川村匡由(著)『地域福祉とソーシャルガバナンス』中央法規出版 2007年
4)大橋謙策(著)『地域福祉とは何か』中央法規出版 2022年

地域福祉とは何か
5)右田紀久恵(編著)『地域福祉総合化への道』ミネルヴァ書房 1995年
6)阿部志郎(著)『福祉の哲学 改訂版』誠信書房 2008年

障害者総合支援法の概略

 2022年、北海道江差町のグループホームで、知的障害のある入居者に対し不妊・避妊処置を求めていたことが問題になった。多様性やニーズにどう応えるかが今まさに問われている。また、障害者の人数は年々増加傾向にあり、障害者総合支援法が注目される機会も増した。そこで障害者総合支援法の概略と今日的な意義について以下述べる。

 障害者総合支援法は、障害のある人が日常生活や社会生活を営むために必要な支援を総合的に行うことを目的とした法律である。障害者自立支援法を改正する形で2013年に施行された。法律の対象者は身体障害者、知的障害者、発達障害者を含む精神障害者、障害児、難病患者の一部である。この法律で受けることができる障害福祉サービスは、自立支援給付と地域生活支援事業の2つが中心となる。
 自立支援給付には介護や就職のための訓練などがあり、以下のようなサービスがある。

①介護給付:居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、短期入所、療養介護、生活介護、施設入所支援など
②訓練等給付:自立訓練、就労移行支援、就労継続支援(A型、B型)、就労定着支援、自立生活援助、共同生活支援など
③相談支援:計画相談支援、地域移行支援、地域定着支援など
④自立支援医療:更生・育成医療、精神通院医療など
⑤補装具費:義肢・装具・車いすなど

 一方、地域生活支援事業は、障害のある人が身近な地域で生活していくための支援事業で、市町村地域生活支援事業、都道府県地域生活支援事業があり、それぞれに必須事業と任意事業がある。
 市町村地域生活支援事業の必須事業には、理解促進研修・啓発事業、相談支援事業、成年後見制度利用支援、意思疎通支援、日常生活用具給付等事業、移動支援、地域活動支援センター機能強化事業などがある。また、任意事業には、福祉ホームの運営、訪問入浴サービス、日中一時支援などの日常生活支援、社会参加支援、就業・就労支援などがある。
 都道府県地域生活支援の必須事業には、専門性の高い相談支援(発達障碍者支援センター運営、障害者就業・生活支援センターなど)、手話通訳者など専門性の高い意思疎通を行う者の養成研修、その派遣、派遣に係る市町村相互間の連絡調整、広域的な支援がある。任意事業にはサービス・相談支援・指導者育成があり、この中には、障害福祉サービス事業所に配置が必要なサービス管理責任者の研修などが含まれている。
 財源は、国がサービス費、自立支援医療費、補装具費などの50%を負担し、都道府県、市町村が25%ずつ負担することになる。地域生活支援事業については国が50%以内、都道府県が50%以内で補助することが出来る。
 障害福祉サービスの利用を希望する場合、原則として市町村による支給決定が必要である。利用に係る費用は市町村より9割相当が支給され、利用者は1割を負担する。負担額には定率負担・所得に応じて上限があり、市町村民税非課税の利用者は無料である。
 障害者総合支援法は、利用者の多様性やニーズの変化への対応、障害者差別解消法、障害者の権利に関する条約の影響、そしてサービスの透明性や質の向上を図ることから、3年ごとに見直し改正されることとなっている。

 以上の概要を述べ筆者は、この法律の意義は、障害のある人が自ら望む場所に居住し、自立した生活を送るために必要な支援を提供すること、社会参加や自己決定の機会が確保されることであると認識するものである。そしてそれは、障害の有無に関係なく地域社会で生きることそのものであると言えるであろう。

おわりに

 計画相談支援に従事する相談支援専門員が不足している。筆者の暮らす自治体も同様で、利用者のニーズに対応することが困難な状況にある。次年度、筆者は相談支援従事者研修を受講する予定であるが、研修制度を含め、抜本的な対策と解決が急務であると考える。

[参考文献]

・宮﨑まさ江、福津律(編)『精神保健福祉制度論』弘文堂 2023年
・デイリー法学選書編修委員会(編)『障害者総合支援法のしくみ』三省堂 2019年

障害者総合支援法のしくみ

・厚生労働省."第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会 参考資料1". 2022年6月9日 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000940708.pdf. (2023年9月27日閲覧)
・厚生労働省."障害者白書". 令和5年版障害者白書.2023年6月 https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r05hakusho/zenbun/index-pdf.html.(2023年10月1日閲覧)

災害支援におけるPSWの役割

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、災害支援活動の大きな転換期となった。初めて保健医療福祉の専門家による支援が行われたのである。その中には精神科医や看護師、精神科ソーシャルワーカーも含まれ、行政機関等と共同でこころのケア活動が展開された。同時に課題も浮き彫りになり、2005年に災害派遣医療チーム(DMAT)が厚生労働省により発足する。東日本大震災ではさらに多くの課題が挙あげられ、災害派遣精神医療チーム(DPAT)が2013年に設立された。

 DPATとは、自然災害、列車・航空機事故等の集団災害の後、48時間以内に被災地に入り支援活動を行う精神医療チームのことである。都道府県及び指定都市により組織され、災害時は被災都道府県の要請を受け派遣される。その活動には、①自己完結型の活動、②積極的な情報共有、③名脇役であれ、の活動3原則がある。構成員は精神科医、看護師、業務調達員等で、PSWはDPATの業務調整員として派遣されることが多く、医療活動を行うための後方支援全般を担う。特にPSWは精神保健医療福祉の専門職であるから、被災者や支援者の心理的なケアや生活支援を行うことが可能である。

 PSWの具体的な活動として先ず挙げられるのは、精神疾患を持った方やその家族への対応である。災害時には、精神疾患を持った方やその家族がさらに不安や孤立を感じることがある。PSWはその方々のニーズや状況を把握し、適切な支援や情報提供を行える。

 また、医療機関や薬局と連携して、治療や服薬の継続を支援することも必要となる。PSWは、DPATの構成メンバーである精神科医師と看護師とともに日頃から意見を交わす関係にあるため、医療用語や略語等にも対応でき、DMATや他の保健医療チームとの連携においてその専門性を発揮することが出来るであろう。

 災害時、被災者の心理状態は主に衝動期、反動期、後外傷期、解決期の4段階があるとされ、各段階で被災者は様々なストレスを抱えている。PSWはその方々の心理的な負担を軽減するため、話し相手や相談窓口となる役割を担える。さらに避難所運営スタッフ等の健康状態にも配慮し違和感への気づきと助言が可能である。支援者支援はPSWの強みであると言える。

 災害時、医療支援のための情報を共有するためのインターネットベースのシステム、広域災害・救急医療情報システム(WDS)があり、DMAT、DPAT、災害派遣看護チーム(DNT)などの情報が登録されている。WDSにおけるPSWの役割は、DPATの活動を円滑に進めるための情報管理や連携に重点が置かれるだろう。例えば、PSWはWDSを利用して、DPATの活動に関する各種報告、他のDPATやDMAT、DNTとの情報交換や連携、調整などを行うことになると考えられる。

 上述してきたような、精神疾患を持った方とその家族への対応、被災によるストレスへの対応、他の支援関係者との連携は、DPATの業務調達員としてではなく、一人のPSWとしてボランティアに参加し行うことも可能であろう。PSWは災害支援において重要な役割を果たすことが出来るのである。しかし現状では、PSWの参画や活動が十分に認知されていない場合もある。そのため、PSWは自ら積極的に関わりを持ち、自分の専門性や貢献できることを周知する必要があるだろう。

おわりに

 支援者支援はPSWの強みであると述べた。これは過去の自らの体験が言わせたことでもある。筆者は東日本大震災の際にボランティアに参加したが、悲惨な光景は今も脳裏に残っている。被災者はもちろん、支援者もPTSDに注意する必要があることを常に考慮し参加していきたい。

[参考文献]

・一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『ソーシャルワークの理論と方法[精神専門]』中央法規出版 2021年
・青木聖久 田中和彦(編著)『社会人のための精神保健福祉士』学文社 2020年
・厚生労働省."精神保健福祉士の災害時の対応における役割の明確化と支援体制に関する調査研究 報告書". 2021年3月 https://www.jamhsw.or.jp/ugoki/hokokusyo/202103saigai_shien/all.pdf (2023年9月17日閲覧)
・厚生労働省."災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領" 2014年1月7日 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/ptsd/dpat_130410.html.(2023年9月17日閲覧)

社会人のための精神保健福祉士