2024年5月15日水曜日

糖尿病について(2型糖尿病の生活習慣病としての側面や合併症の問題)

 糖尿病は国が定める重要疾患の一つである。2016年の調査では、糖尿病有病者と予備群は約2,000万人いるとされている。また、知的や精神障害のある人は運動をする機会が少ないことから、生活習慣病の予防が課題となるケースがある。そこで本稿では、糖尿病について1型糖尿病と2型糖尿病に分け、特に2型糖尿病について生活習慣病としての側面、及び合併症について述べる。

 糖尿病とは、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度が正常値よりも高くなる状態を指す。ブドウ糖は、食べ物から摂取した炭水化物が消化されて作られるエネルギー源である。ブドウ糖はインスリンの働きによって細胞に取り込まれるが、インスリンの分泌や作用に異常があると血液中にブドウ糖がたまってしまう。これが糖尿病の原因であり、糖尿病には主に1型と2型の2種類がある。
 1型糖尿病は、自己免疫反応によってインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が壊されてしまい、インスリンの分泌がほとんどなくなるタイプである。主に若年者に発症し、遺伝的な要因やウイルス感染などが関係していると考えられている。治療はインスリン注射によってインスリンを補うインスリン療法が主である。
 2型糖尿病は、インスリンの分泌量が減少したり、インスリンの働きが弱くなったりするタイプだ。主に中高年者に発症し、遺伝的な要因に加えて、食生活や運動不足などの生活習慣が大きく影響していることから生活習慣病と呼ばれることもある。治療法は、食事や運動によって血糖値をコントロールすることである。薬物治療やインスリン注射も必要な場合もある。2型は日本人の糖尿病全体に対し90%以上を占めている。

 糖尿病を放置すると、様々な合併症を引き起こす危険性がある。合併症には、心臓や脳などの大きな血管に障害を起こす大血管症と、目や腎臓などの微小血管に障害を起こす細小血管症とがある。細小血管症の中でも、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害は、三大合併症と呼ばれている。
 糖尿病性腎症は、腎臓の機能を担う糸球体の血管が傷つき、腎臓の働きが低下する合併症である。タンパク尿や高血圧などが起こり、人工透析が必要になることもある。
 糖尿病性網膜症は、網膜の血流が低下することで視力が低下する合併症で、重症化すると失明の危険がある。中途失明の原因の第一位となっている。
 糖尿病性神経障害は、神経の血管が傷つき、神経の伝達が悪くなる合併症である。手足のしびれや感覚異常、自律神経が障害されることによる起立性低血圧、排尿障害などが起こる。重症化すると、壊疽による下肢切断、突然死の危険がある。

 2型糖尿病は生活習慣の改善で予防や改善が期待出来る。禁煙、禁酒、十分な睡眠、ストレスへの対処など注意することは多いが、中でも重要なのは、治療法にも挙げた食事と運動である。
 食事で注意することは、適正な体重コントロールの為、食事はバランスよく摂り、食べ過ぎや間食を避けること。また、食後の血糖値を上昇させないため、食物繊維を多く含む食品を先に摂るなど、食べ方にも工夫が必要である。
 運動は、有酸素運動を週3回以上、1回に20分以上行うと良い。運動することでインスリンの効きが良くなり血糖値が下がる。また、食後に運動をすると筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が増加するため、血糖値の上昇が改善されることが期待できる。
 2型糖尿病は完治する病気ではないが、生活習慣の改善によって血糖値をコントロールし合併症を予防することはできる。自分の体と向き合い、健康的な生活を送ることが大切なのである。

おわりに
 筆者はパラ・スポーツ指導員であり、ボランティアで障害者のジョギングサークルで指導している。参加者の中には、医師に糖尿病の予防や治療に運動を勧められている人もいる。知識を深め、今後も運動する機会と場の提供に力を入れていきたい。

[参考文献]
・福祉臨床シリーズ編集委員会(編)『医学概論』弘文堂 2021年
・中神朋子(著)"糖尿病の疫学".日本内科学会雑誌110巻9号 2022年9月10日公開 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_2013/_pdf/-char/en.(2023年10月25日閲覧)
・糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)."糖尿病の慢性合併症について知っておきましょう" 2015年11月4日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/020/02.html.(2023年10月27日閲覧)
・糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)."神経障害" 2018年4月6日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/060/01.html.(2023年10月27日閲覧)
・糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)."網膜症" 2018年1月17日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/050/01.html.(2023年10月27日閲覧)
・糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)."腎症" 2018年11月6日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/070/01.html.(2023年10月27日閲覧)
・糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)."大血管症" 2016年8月26日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/030/01.html.(2023年10月27日閲覧)
・糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)."糖尿病足病変" 2016年9月14日 https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/040/01.html.(2023年10月27日閲覧)
・日本糖尿病学会."糖尿病合併症について" 2021年9月2日 http://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=3.(2023年10月29日閲覧)
・日本糖尿病学会."糖尿病の治療について" 2021年9月2日 http://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=4.(2023年10月29日閲覧)

2024年5月9日木曜日

質的調査の特徴とデータ収集の方法(面接法と観察法)について

 社会福祉調査の方法は、量的なニーズの把握方法としての量的調査と、観察法や面接法などによる質的調査がある。本稿では、質的調査の特徴と質的調査のデータ収集の方法(面接法と観察法)について述べる。

 質的調査とは、社会事象や人間行動を数値化することが困難な場合や、数値化することで本質が見えにくくなる場合に用いられる社会調査の方法である。質的データ(数値ではなく言語によって記述されたデータ)を分析することで、調査対象の深層的な意識や感情、生活経験や文化的背景などを理解しようとするものである。その特徴は以下のようにまとめられる。

・調査対象の数は少なく、個々の事例に焦点を当てる。
・調査者は調査対象との関係性を重視し、対話や共感を通じてデータを収集する。
・調査者は自分の主観や価値観を明らかにし、それらがデータにどのように影響するかを考慮する。
・データの分析は、調査対象の言葉や行動をそのまま記述することから始め、そこからパターンや意味を探求する。
・データの解釈は、複数の視点や理論を用いて行い、可能な限り調査対象の検証やフィードバックを得る。

 次に、質的調査のデータ収集の方法としてよく用いられる面接法と観察法の特徴と違いについて述べる。
 面接法は、調査者が調査対象に対して質問を行い、その回答を記録する方法である。面接法には、構造化面接、半構造化面接、非構造化面接の3種類がある。
 構造化面接は、決められた質問項目に沿って面接を行う方法で、回答の比較や分析が容易である。半構造化面接は、質問項目は決めておくが、その順序や表現は柔軟に変えられる方法で、調査対象の反応や関心に応じて面接を進めることが可能である。非構造化面接は、質問項目を決めずに調査対象の話を自由に聞く方法で、調査対象の深層的な思考や感情を引き出すことができる。
 ウェッブ夫妻は、面接を成功させるための第一条件を、面接する側が「主題に関係する(中略)データに眼を通していなければならない」1)としており、研究者にとって困難なこととして主観や偏見のない「正しいマナーでインタビューを行うこと」2)を挙げている。上記3種類のすべての面接法において留意すべき点であると言えよう。

 観察法は調査者が調査対象の行動や状況を直接目撃し、その様子を記録して分析する方法である。観察法には統制的観察法と非統制的観察法の2種類がある。
 統制的観察法とは、観察方法や調査内容を予め決めておき、厳密に統制された条件のもとで観察する方法である。決められた手順で観察できることから、観察結果の客観性を保持しやすく、観察結果を数値化して把握することが可能である。
 非統制的観察法は、観察方法や調査内容を統制せずに自然な状況で観察する方法で、参与観察法と非参与観察法とに分けられる。
 参与観察法は、調査者が調査対象者や現象の一部となって観察を行う方法で、実態を多角的に観察することができるという利点がある。しかし、調査結果の客観性を得にくいなどの短所もある。
 非参与観察法は、調査者が調査対象者や現象の一部とならずに(例えばマジックミラーなどを使用して)観察を行う方法である。対象者に観察者の存在を意識させずに観察することが可能であるが、その一方で観察対象の内面性や背景を把握しにくいことが特徴として挙げられる。

 以上のように、質的調査は、社会福祉の現場で生じる複雑で多様な問題に対して、個別的で包括的な理解を得るために有効な方法である。しかし、調査者の主観や偏見がデータに影響する可能性、データの信頼性や妥当性を検証する困難さなどの課題もある。質的調査を行う際は、調査の目的や方法を明確にし、調査対象の倫理的配慮やプライバシー保護を徹底し、データの分析や解釈には論理的な根拠や理論的な枠組みを用いることが必要であろう。

[引用文献]

1)S・ウェッブ B・ウェッブ(著)『社会調査の方法』東京大学出版会 1982年 P129
2)同上 P131

社会調査の方法|表紙

[参考文献]
・日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『社会福祉調査の基礎』中央法規出版 2021年
・S・ウェッブ B・ウェッブ(著)『社会調査の方法』東京大学出版会 1982年
・甲南大学文学部社会学科 『社会調査工房オンライン』 http://kccn.konan-u.ac.jp/sociology/research/.(2023年12月20日閲覧)