社会福祉調査の方法は、量的なニーズの把握方法としての量的調査と、観察法や面接法などによる質的調査がある。本稿では、質的調査の特徴と質的調査のデータ収集の方法(面接法と観察法)について述べる。
質的調査とは、社会事象や人間行動を数値化することが困難な場合や、数値化することで本質が見えにくくなる場合に用いられる社会調査の方法である。質的データ(数値ではなく言語によって記述されたデータ)を分析することで、調査対象の深層的な意識や感情、生活経験や文化的背景などを理解しようとするものである。その特徴は以下のようにまとめられる。
・調査対象の数は少なく、個々の事例に焦点を当てる。
・調査者は調査対象との関係性を重視し、対話や共感を通じてデータを収集する。
・調査者は自分の主観や価値観を明らかにし、それらがデータにどのように影響するかを考慮する。
・データの分析は、調査対象の言葉や行動をそのまま記述することから始め、そこからパターンや意味を探求する。
・データの解釈は、複数の視点や理論を用いて行い、可能な限り調査対象の検証やフィードバックを得る。
次に、質的調査のデータ収集の方法としてよく用いられる面接法と観察法の特徴と違いについて述べる。
面接法は、調査者が調査対象に対して質問を行い、その回答を記録する方法である。面接法には、構造化面接、半構造化面接、非構造化面接の3種類がある。
構造化面接は、決められた質問項目に沿って面接を行う方法で、回答の比較や分析が容易である。半構造化面接は、質問項目は決めておくが、その順序や表現は柔軟に変えられる方法で、調査対象の反応や関心に応じて面接を進めることが可能である。非構造化面接は、質問項目を決めずに調査対象の話を自由に聞く方法で、調査対象の深層的な思考や感情を引き出すことができる。
ウェッブ夫妻は、面接を成功させるための第一条件を、面接する側が「主題に関係する(中略)データに眼を通していなければならない」1)としており、研究者にとって困難なこととして主観や偏見のない「正しいマナーでインタビューを行うこと」2)を挙げている。上記3種類のすべての面接法において留意すべき点であると言えよう。
観察法は調査者が調査対象の行動や状況を直接目撃し、その様子を記録して分析する方法である。観察法には統制的観察法と非統制的観察法の2種類がある。
統制的観察法とは、観察方法や調査内容を予め決めておき、厳密に統制された条件のもとで観察する方法である。決められた手順で観察できることから、観察結果の客観性を保持しやすく、観察結果を数値化して把握することが可能である。
非統制的観察法は、観察方法や調査内容を統制せずに自然な状況で観察する方法で、参与観察法と非参与観察法とに分けられる。
参与観察法は、調査者が調査対象者や現象の一部となって観察を行う方法で、実態を多角的に観察することができるという利点がある。しかし、調査結果の客観性を得にくいなどの短所もある。
非参与観察法は、調査者が調査対象者や現象の一部とならずに(例えばマジックミラーなどを使用して)観察を行う方法である。対象者に観察者の存在を意識させずに観察することが可能であるが、その一方で観察対象の内面性や背景を把握しにくいことが特徴として挙げられる。
以上のように、質的調査は、社会福祉の現場で生じる複雑で多様な問題に対して、個別的で包括的な理解を得るために有効な方法である。しかし、調査者の主観や偏見がデータに影響する可能性、データの信頼性や妥当性を検証する困難さなどの課題もある。質的調査を行う際は、調査の目的や方法を明確にし、調査対象の倫理的配慮やプライバシー保護を徹底し、データの分析や解釈には論理的な根拠や理論的な枠組みを用いることが必要であろう。
[引用文献]
1)S・ウェッブ B・ウェッブ(著)『社会調査の方法』東京大学出版会 1982年 P129
2)同上 P131
[参考文献]
・日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『社会福祉調査の基礎』中央法規出版 2021年
・S・ウェッブ B・ウェッブ(著)『社会調査の方法』東京大学出版会 1982年
・甲南大学文学部社会学科 『社会調査工房オンライン』 http://kccn.konan-u.ac.jp/sociology/research/.(2023年12月20日閲覧)