先ず、以下の画像をご覧いただきたい。私が昨年度まで勤務していた就労継続支援B型事業所の給与明細である。
簡単に労働条件を記しておくと、給与は上記の合算で月額15万7千円であり、通勤手当などはない。労働時間は9時から17時(休憩1時間、実働7時間だが昼休みは利用者の見守りや対応となるため、休憩時間はないに等しい)。休日は土日祝日となっていた。年末年始の休みは役所と同じ日程であったが、夏季休暇は一切ない。事業所の規模は利用定員20名。最小規模の事業所だ。
給与の安さに驚かれる人が多いと思う。確かに低額である。私の居住する沖縄県の平均年収は全国でも最低レベルであり福祉業はその中でも低い。さらにその沖縄県の福祉業界の中でも低いと言える賃金である。
個人的なことで恐縮であるが、私は精神保健福祉士の受験資格を得るために専門学校に通っていた期間、アルバイトなどで福祉業の勤務実績を得るつもりであった。40代後半より福祉業に転職した私は、それまで2年間の実績があったのだが相談支援専門員やサービス管理責任者となるには5年の実績が必要であった。勉強しながら働ける環境を第一優先としていたので、給与は気にしていなかったのである。
私はこの事業所で精神保健福祉士を取得するまでの期間と、資格取得後は恩返しの意味も含めて1年働いたのである。恩返しとは、スクーリングなどで長期休むことを許可してもらったことなどに対してのもので、精神保健福祉士であるので福祉専門職員配置等加算が事業所についたのである。ちなみに資格取得後の1年間、資格手当はなかった。
さて、福祉業界の低賃金は大きな問題であると認識しているが、今回私が取り上げたいのは、処遇改善手当の扱いについてである。処遇改善手当とは、処遇改善加算によって国(国保連)から事業所が受け取った資金を各職員に支給されるものである。
2009年、介護職の低賃金問題解消のために取り入れられた交付金制度が始まりで、2012年に現行の介護職等処遇改善加算へ移行された。介護職等とあるように、現在は就業支援など介護職以外の福祉事業にも適用されている制度だ。
さて、今一度私の給与明細を見ていただきたい。処遇改善手当は4万円である。基本給は10万7千円。月の労働時間は、あってないような休憩時間を除くと、20日間勤務で140時間。時給換算すると私の基本給は764.2円である。私が勤務開始した頃の沖縄県の最低賃金は896円で2025年度には1023円になっている。役職手当なるものを合算しても私の時給は835円程度。処遇改善手当がなければ最低賃金に遠く及ばなかったのが現状だ。
なお、明細に処遇改善加算とあるがこれは事業所側の誤りで、正しくは処遇改善手当である。
厚生労働省は『処遇改善加算の加算額が、臨時に支払われる賃金や賞与等として支払われておらず、予定し得る通常の賃金として、毎月労働者に支払われているような場合には、当該加算額を最低賃金額と比較する賃金に含めることとなるが、処遇改善加算の目的等を踏まえ、最低賃金を満たした上で、賃金の引上げを行っていただくことが望ましい』1)としており、この見解は介護職員を対象として導入されたころから変わっていない。
この文面、福祉事業所の経営者や経営者を相手とする社労士では、「最低賃金に含めてもよい」という部分のみを捉えるが多くなる。一方労働者の視点では「最低賃金にプラスされたものであるべき」「臨時に支払われる賃金や賞与であるべき」と捉える人が多いだろう。私の考えは後者であるのだが、その理由は、厚生省の言う「処遇改善加算の目的」と、その原資が公的資金であることだ。
現在の最低賃金法では、最低賃金に原則として「毎月固定的に支払われる手当(職能手当、役職手当など)」を含めて計算することができる。しかし、当然のことだが役職手当などの原資は公的資金ではない。事業所に直接給付される公的資金を最低賃金に含めてしまうことは合点がいかないのだ。
訓練等給付費(障害福祉サービス)も原資は公的であり直接事業所に支払われるものであるが、利用者の負担を原則1割とするためのものである。このような給付費とは同等に扱うべきものではないだろうと私は考える。
引用元の記述は避けるが、福祉を専門とする社労士のサイトの中には、介護の現場では最低賃金を支払うことは難しいので処遇改善手当を充てることを良しとするものがあった。処遇改善加算を得るまで普通に最低賃金を支払っていた事業所が、新たに雇用する職員の最低賃金に処遇改善手当を充当させるとなると、実際には事業所の負担軽減に繋がるケースが多いようである。これでは本来の目的とはかけ離れていると言えないだろうか。
確かに、処遇改善加算の算定要件には、①キャリアパス要件、②月額賃金改善要件、③職場環境等要件があり、事業所は自治体に計画書を提出しなければならない。が、少なくとも私がこれまでに見てきた事業所では、計画通り運用されているとは言い難い現状があった。
以上のことから、私には処遇改善加算の現制度は、必ずしも職員の賃金引上げに繋がるものではないと考える。その大きな要因は、厚労省の『通常の賃金として、毎月労働者に支払われているような場合には、当該加算額を最低賃金額と比較する賃金に含めることとなる』という一文にある。
最低賃金には毎月固定的に支払われる手当を含めてよいが、例えば家族手当は除外される。その理由は、「労働の対価」ではなく、個人の家族構成(配偶者や子の人数)に応じて支払われる「生活補助」的な性格が強い手当であるからだ。処遇改善の目的も「生活補助」に近いと私には思えるのである。
それに現状では考えにくいことではあるが、「処遇改善」とあるのだから、処遇が改善されれば廃止される制度とも考えられる。やはり補助的な意味合いが強い。
真に福祉従事者の処遇を改善するのであれば、例えば勤続年数や所持している資格によって、事業所を介さず直接職員に支給する制度を構築すべきだと考える。私のいた事業所も経営難ではあったが、それでも、職員の処遇改善を目的とした制度が、事業所の負担軽減になるものであってはならない。経営改善をサポートする制度は、また別のものであるべきだ。
そして厚労省は、私が問題とした一文を、速やかに削除訂正するべきだと考えるがいかがであろうか。
【引用】
1、厚生労働省老健局老人保健課, 「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」, 2026年3月13日, https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675711.pdf
【後記】
これは私の感情的な問題であるが、実務経験のためと割り切っていたとはいえ、基本給の時給が700円台であったことは衝撃であった。支援の現場で大変なケースに遭遇すると「この時給でここまでしなければならないのか」とウンザリすることも多々あった。経営者に近い人に打ち明けたことがあるからだろう。現在、私の後任の求人は月額16万円で出されている。基本給は15万、処遇改善手当は1万だそうである。合計は大して変わらないのだからそれでも安いと思うが…。
文中の社労士のサイトがあるような現状を考えると、私のようなケースで今も働いている福祉従事者は多く存在するのだろう。福祉の発展と充実は既に日本社会の大きな課題である。一日も早く改善されることを望み、私も日々福祉の世界で活きてゆこうと思う。
