現代の日本は少子高齢化の社会である。労働力減少と経済力低下が懸念されており、多様な人材による生産性の高い働き方が求められている。そうした中、内閣府は2007年、仕事と生活の調和憲章を定めた。2018年には働き方改革関連法案が成立し、ワークライフバランスの重要性は益々高まっている。そこで、その重要性と、関連性のある労働保険の特徴と役割について以下述べる。
ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和を図ることで、個人や家族、社会全体の幸福や経済的な発展を目指す考え方である。
その利点と重要性は、個人にとっては、希望するバランスの実現により心身ともに健康であるとともに、子育てや介護など仕事以外の活動に時間を割くことができることが挙げられる。企業や組織にとっては、労働者の仕事への意欲や満足度が高まることで、人材の確保や育成、離職率低下への効果、生産性や競争力を向上させることが期待される。こうしたことから、ワークライフバランスの推進は経済社会の活力向上につながると言える。
労働保険は社会保険制度の一つで、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険を総称したものである。どちらも事業主や政府も含めた社会全体で労働者を支える仕組みであり、労働者が安心して働くことができる環境を整えることを目的としている。
労災保険は、労働者が業務上や通勤中に負傷や病気になった場合や死亡した場合、被災労働者や遺族に医療費や補償金などの給付を行う制度である。業務上の場合を業務災害、通勤中の場合は通勤災害と呼ばれる。
保険者は政府で、事務を行うのは都道府県労働局と労働基準監督署である。雇用形態を問わず労使関係にある労働者全員が適応対象である。また、個人事業の事業主も任意加入が出来る。
保険料は全額事業主負担である。保険料率は業種ごとに過去の災害発生率等を考慮し定められ、保険料が滞納されていた場合でも労働者は給付を受けることが出来る。一方、労働者が故意に事故を生じさせた等、使用者に賠償責任がない場合、給付は行われない。
給付の種類は、療育給付、休業給付、障害年金、障害一時金、遺族年金、遺族一時金、葬祭料、傷病年金、介護給付がある。業務災害の場合は、葬祭料を除き「補償」の2文字がそれぞれ名称の間に入る(例:介護給付⇒介護保障給付)。また、複数業務要因災害の場合では、それぞれの名称の前に「複数事業労働者」が入る。
雇用保険は、労働者が失業や育児・介護休業などで収入が減少した場合や、教育訓練を受けた際、生活や雇用の安定と就職の促進を図るために失業手当や訓練給付などの給付を行う制度である。求職者給付、就職促進給付、雇用継続給付、教育訓練給付からなる失業等給付、2020年より失業等給付より独立して位置づけられた育児休業給付、事業主に助成金や補助金などを支給することで雇用の創出や継続を支援する雇用保険二事業(雇用安定事業と能力開発事業)がある。
保険者は政府で、ハローワークが手続きを行う。
保険料は労使折半であるが、雇用保険二事業は全額事業主の負担である。
求職者給付の基本手当の受給資格者は、被保険者が失業した日以前の2年間に12か月以上の被保険者期間がある者である。求職者給付には他に、高齢者求職者給付、技能習得手当・寄宿手当、傷病手当がある。
育児休業給付には、2022年10月、改正育児介護休業法が施工され、出生時育児休業が実施されることに伴い出生時育児休業給付金が新設され、育児と仕事の両立への貢献が期待されている。
おわりに
上述のように、ワークライフバランスと労働保険は、それぞれ異なる目的と内容を持っているが、共通して労働者の福祉や雇用の安定を目指している。故に両者は一体的に推進する必要性がある。政府による制度の整備や改善は勿論、企業や個人においても積極的な参加が求められるのである。
[参考文献]
・阿部裕二・熊沢由美(編著)『社会保障』弘文堂 2023年
・平澤克彦・中村艶子(編著)『ワークライフ・インテグレーション』ミネルヴァ書房 2021年
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "ワーク・ライフ・バランスの必要性について". 第1回「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会 2007年8月31日 https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/change/k_1/pdf/s6.pdf.(2007年8月31日)
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "「ワーク・ライフ・バランス」の定義". 第2回「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会 2007年9月26日 https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/change/k_2/pdf/sk1.pdf.(2007年9月26日)
・内閣府 男女共同参画局 仕事と生活の調和推進室. "ワーク・ライフ・バランス行動指針に盛り込むべき事項". 第3回「働き方を変える、日本を変える行動指針」(仮称)策定作業部会 2007年10月2日 https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/change/k_3/pdf/s2.pdf.(2007年10月2日)