1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、災害支援活動の大きな転換期となった。初めて保健医療福祉の専門家による支援が行われたのである。その中には精神科医や看護師、精神科ソーシャルワーカーも含まれ、行政機関等と共同でこころのケア活動が展開された。同時に課題も浮き彫りになり、2005年に災害派遣医療チーム(DMAT)が厚生労働省により発足する。東日本大震災ではさらに多くの課題が挙あげられ、災害派遣精神医療チーム(DPAT)が2013年に設立された。
DPATとは、自然災害、列車・航空機事故等の集団災害の後、48時間以内に被災地に入り支援活動を行う精神医療チームのことである。都道府県及び指定都市により組織され、災害時は被災都道府県の要請を受け派遣される。その活動には、①自己完結型の活動、②積極的な情報共有、③名脇役であれ、の活動3原則がある。構成員は精神科医、看護師、業務調達員等で、PSWはDPATの業務調整員として派遣されることが多く、医療活動を行うための後方支援全般を担う。特にPSWは精神保健医療福祉の専門職であるから、被災者や支援者の心理的なケアや生活支援を行うことが可能である。
PSWの具体的な活動として先ず挙げられるのは、精神疾患を持った方やその家族への対応である。災害時には、精神疾患を持った方やその家族がさらに不安や孤立を感じることがある。PSWはその方々のニーズや状況を把握し、適切な支援や情報提供を行える。
また、医療機関や薬局と連携して、治療や服薬の継続を支援することも必要となる。PSWは、DPATの構成メンバーである精神科医師と看護師とともに日頃から意見を交わす関係にあるため、医療用語や略語等にも対応でき、DMATや他の保健医療チームとの連携においてその専門性を発揮することが出来るであろう。
災害時、被災者の心理状態は主に衝動期、反動期、後外傷期、解決期の4段階があるとされ、各段階で被災者は様々なストレスを抱えている。PSWはその方々の心理的な負担を軽減するため、話し相手や相談窓口となる役割を担える。さらに避難所運営スタッフ等の健康状態にも配慮し違和感への気づきと助言が可能である。支援者支援はPSWの強みであると言える。
災害時、医療支援のための情報を共有するためのインターネットベースのシステム、広域災害・救急医療情報システム(WDS)があり、DMAT、DPAT、災害派遣看護チーム(DNT)などの情報が登録されている。WDSにおけるPSWの役割は、DPATの活動を円滑に進めるための情報管理や連携に重点が置かれるだろう。例えば、PSWはWDSを利用して、DPATの活動に関する各種報告、他のDPATやDMAT、DNTとの情報交換や連携、調整などを行うことになると考えられる。
上述してきたような、精神疾患を持った方とその家族への対応、被災によるストレスへの対応、他の支援関係者との連携は、DPATの業務調達員としてではなく、一人のPSWとしてボランティアに参加し行うことも可能であろう。PSWは災害支援において重要な役割を果たすことが出来るのである。しかし現状では、PSWの参画や活動が十分に認知されていない場合もある。そのため、PSWは自ら積極的に関わりを持ち、自分の専門性や貢献できることを周知する必要があるだろう。
おわりに
支援者支援はPSWの強みであると述べた。これは過去の自らの体験が言わせたことでもある。筆者は東日本大震災の際にボランティアに参加したが、悲惨な光景は今も脳裏に残っている。被災者はもちろん、支援者もPTSDに注意する必要があることを常に考慮し参加していきたい。
[参考文献]
・一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『ソーシャルワークの理論と方法[精神専門]』中央法規出版 2021年
・青木聖久 田中和彦(編著)『社会人のための精神保健福祉士』学文社 2020年
・厚生労働省."精神保健福祉士の災害時の対応における役割の明確化と支援体制に関する調査研究 報告書". 2021年3月 https://www.jamhsw.or.jp/ugoki/hokokusyo/202103saigai_shien/all.pdf (2023年9月17日閲覧)
・厚生労働省."災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領" 2014年1月7日 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/ptsd/dpat_130410.html.(2023年9月17日閲覧)