2024年3月19日火曜日

神経発達障害群の分類と特徴

 DSM-5では神経発達症群として、知的能力障害群、コミュニケーション症群、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症、運動症群が含まれている。以下それぞれ分類と特徴を述べる。

1、知的能力障害
 知的能力障害は、知的機能の発達が遅れ社会生活への適応が困難な状態のことで、その分類は障がいの程度によるものと原因によるものとがある。程度による分類は、知能指数(IQ)と行動の指標によりされる。主にIQ70未満の人を知的障害とされてきたが、DSM-5では症状を全般的に捉え4段階に分類しており知能指数による区分は採用されなくなった。
原因による分類には、
①ダウン症候群などの染色体異常
②フェニルケトン尿症等の先天性代謝異常
③クレチン病に代表される先天性内分泌異常
④神経性皮膚症候群である結節性硬化症
⑤周産期、⑥出生時、⑦出生後の異常が挙げられる。

2、コミュケーション症群
 言葉(言語)を使って他者とコミュニケーションをとることが困難となるもので、言語症、語音症、小児期発症流暢症(吃音)、社会的コミュニケーション障害がある。

3、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
 DMS-4では広汎性発達障害として自閉性障害、アスペルガー障害、レット症候群、小児崩壊性障害等が挙げられていたが、5では広汎性発達障害が自閉症スペクトラム障害に変更され、レット症候群は遺伝子異常であることが判明したこと等を理由にこの分類から除かれた。なおICD-10には広汎性発達障害として小児自閉症、レット症候群、他の小児期崩壊性障害、アスペルガー症候群等が挙げられている。ASDは社会性やコミュニケーションの障害であり、特定のものに対する強い関心や興味、反復性の行動の障害を特徴とする。

4、注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD)
 衝動性、多動、不注意を主な症状とする行動に関する障害である。ケアレスミスが多いなどの不注意、落ち着きのない状態が多い多動性、後先を考えず行動する衝動性などがみられ、その型は「不注意優勢型」、「多動性-衝動性優勢型」、両方の特性が混在した「混合型」の3つがある。ADHDの正確な原因は不明であり、診断基準はDMS-4とICD-10が主に用いられ、医学的検査によるものではなく臨床的な判断による。それが原因かは不明だが、私はADHDと診断されていた人が後に診断名が変更されたケースを職場で経験している。

5、限局性学習症/限局性学習障害(SLD)
 学習障害(LD)は全般的には知的発達の遅れがないが、読み、書き、計算など学習面の能力に障害やアンバランスさがみられる障害である。DMS-4ではLDを読み、書き、算数の3領域の単独の障害、或いは重複に限定していたが、DMS-5では発達段階を考慮し診断が出来るようになり診断名をSLDとした。

6、運動症群
 道具を使うことが苦手など不器用さを特徴とする発達性強調障害、目的がないように見える行動を繰り返す常動的運動障害、チック障害などがまとめられている。
 チック障害には肩や首を動かすといった反復的な運動をする運動性チックと、奇声や咳払いなどの音声チックとがある。その持続が1年未満のものを暫定的チック障害、1種類以上の運動チック、音声チックが1年以上続くものはトゥーレット障害と呼ばれる。トゥーレット障害は難治であり成人期まで続く。

おわりに
 パラ陸上において、知的障害はクラス20のみが存在するのだが、国内の規定では療育手帳を所持しているかIQ75以下であり、国際的にはIQのみで判断される。上述のASD等の併存は考慮されないことから、選手や関係者が不公平を感じる場面も多々ある。そうした中、DSM-5と同様にICD-11でも知的発達症の評価に行動指標が加味されたことに注目している。精神・発達障害者スポーツの普及、パラ陸上における新たなクラス創設に向けて大きな指針となることに期待したい。


[参考文献]
・一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟編集『精神医学と精神医療』中央法規 2021年

・三村將編集『精神科レジデントマニュアル第2版』医学書院 2022年
精神科レジデントマニュアル第2版

・稲垣真澄、加賀佳美. "知的障害(精神遅滞)".
 e-ヘルスネット(厚生労働省)
  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
・稲垣真澄、加賀佳美. "ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について" 
 e-ヘルスネット(厚生労働省)
  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html 
・稲垣真澄、加賀佳美. "健康用語辞典「発達障害」"
 e-ヘルスネット(厚生労働省).
 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-049.html
・小川しおり、岡田俊.  "ICD 11 における神経発達症群の診断について" 
 精神神経学雑誌 第124巻第10号
 連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ
 公益社団法人日本精神神経学会.
 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1240100732.pdf