2024年3月23日土曜日

当事者主体の支援を行うための視点

はじめに

 ソーシャルワークのグローバル定義には「ソーシャルワークは、生活課題に取組みウェルビーイングを高めるよう人々や様々な構造に働きかける」1)とある。ウェルビーイングとは個人の幸福や満足のいく状態のことであり、構造には機関や地域社会、生活環境等が挙げられる。このウェルビーイングを高める支援では、当事者が主体となって課題に取組むことは勿論、家庭や地域社会への働きかけが必要となってくる。そして精神保健福祉士が当事者主体の支援を実現するためには、生活者の視点と権利擁護を重視すべきであると考える。

生活者の視点

 生活者の視点の重要性は、近年の医療モデルから生活モデルへの転換からも見ることが出来る。医療モデルでは支援の重点を障害の克服や健常者に近づけることが重視されてきた。当事者の抱える問題は当事者の中に見出せるという考え方である。一方生活モデルは、当事者を主体とした社会復帰を目指すものである。当事者が抱える障害を課題とするだけではなく、それに伴う生活のしづらさを作り出している社会や生活環境への働きかけを支援の基本としているのである。

権利擁護

 権利擁護には、当事者を権利の主体であると捉え、自己決定を保障し、当事者自身が生活するために本来持っている能力を発揮できるように引きだす支援が重要であり、支援者には、エンパワメント、ストレングス、リカバリーなどを理解し実践していくことが求められる。

 エンパワメントとは、当事者自身が自己決定し、問題解決能力、生活能力を身に着けていくことである。そして当事者の能力の可能性や強さを最大限に引きだすためには、当事者のストレングス(強み、長所)を見出すことが必要であり、支援者は当事者を長所や強みのある可能性に満ちた人であると捉え、協働的な関係において問題を解決していくこと、つまりストレングスの視点を持たねばならないのである。

 カンザス大学のラップ教授らは、ストレングスの要素として、当事者に備わっている能力、自信、希望などを個人のストレングス、家族や友人、社会関係などの地域資源を環境のストレングスとしており、ストレングス・モデルの基盤となる6原則を挙げている。「地域を資源のオアシスとしてとらえる」「クライエントこそが支援過程の監督者である」2)を含むこの6原則は、当事者主体の支援を実践するにあたり常に心に留め置くべき重要事項と言えるだろう。

 リカバリーは直訳すると回復という意味であるが、ここでは精神障害のある人が、それぞれ自分が求める生き方を主体的に追求することである。症状をなくすことではなく、夢や希望を持ち、意義ある満足のいく人生に立て直していくことであり、当事者自身が歩み、主役は常に当事者本人である。

 精神科リハビリテーションの研究者アンソニーは、リカバリーを「精神疾患の破局的な影響を乗り越えて、人生の新しい意味と目的をつくり出すことである。精神疾患からの回復は、病気そのものからの回復以上のものを含んでいる」3)としている。リカバリーは、一時点の状態ではなく、人生における新たな意味と目的を作り出すプロセスや過程であり、その内容やペースは十人十色で、まさに当事者自身の人生の旅路とも言える。精神保健福祉士が支援する際は、当事者の希望や選択に尊重し、信頼関係を築くことが重要である。当事者の権利や尊厳を守ることで、前述のエンパワメントを促すことに繋がるのである。

おわりに

 以上、生活者の視点と権利擁護を中心に述べたが、いずれも、当事者のチャレンジする気持ちが必要不可欠である。私が関わっているパラ・スポーツでもそうだが、いつも上手くいくとは限らない。立ち止まることや、来た道を戻ってやり直すことも挑戦だ。こうした選択肢があることを念頭に、精神保健福祉士は当事者と一緒に考えることが重要と言えるだろう。

[引用文献]

1)福島喜代子(著)、日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『ソーシャルワークの基盤と専門職』中央法規出版 2021年 P.54
2)新・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会(編)『精神保健福祉の原理』へるす出版 2023年 P.51
3)同上 P.171

[参考文献]

・新・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会(編)『精神保健福祉の原理』へるす出版 2023年
・日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『ソーシャルワークの基盤と専門職』中央法規出版 2021年
・野中 猛『心の病 回復への道』岩波書店 2012年

心の病 回復への道
・中西正司、上野千鶴子『当事者主権』岩波書店 2003年