2024年3月21日木曜日

LGBTに関する諸問題

 「LGBT理解増進法案」が一部修正され国会に提出された。修正案では、法案の基本理念にあった「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」という文言が「性同一性を理由とする不当な差別はあってはならない」と変更されている。ここに出てくる性自認と性同一性、そして差別という言葉を中心にLGBTの問題について考察したい。また筆者はパラ・スポーツ指導員でもあるので、スポーツの観点からも述べる。

・LGBTとは

 LBGTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの総称であり、LGBは恋愛対象に関するもので、Tは性同一性に関するものである。総称で一括りにされているがLGBとTはまるで異なる。トランスジェンダーは性同一性障害という名称であったが、DSM-5では「性別違和」に病名は変わり、2022年のICD-11では新設された「性の健康に関する状態」の章に移動され、名称は「性別不合」となった。つまりLBGTは精神疾患ではなくなったのである。

・最大の課題は理解増進

 ここで注目したいのが性同一性障害者特例法の存在である。日本で性別を変更するには性別違和の診断が必要条件の一つとなっている。しかしICD-11では精神疾患ではないのだから、前述の修正案で性同一性とすることは、国際的な流れに逆行していると言える。それでも性同一性としたい理由は、性自認であれば自称で事足りてしまうことへの不安からであろう。皮肉にも、理解増進法案を提出する側の人々の間ですら、理解が進んでいないことが明るみになったと言える。そしてLGBTの最大の問題点は、理解が進んでいないことにあるのだろう。いずれにせよ、国内でも性別違和を疾患ではないとする方向性に舵をとるなら、性同一性障害者特例法は見直しの必要がある。

 LBGTの人々の中には、子供時代に自分が認識している性とは異なる服装を強いられることもあり、それが原因で不登校になる人がいる。いじめやいやがらせもある。成人となっても対人関係の支障は広く見られ、不安症や抑うつ障害になることもある。同性婚を希望しても日本では法的に認められておらず、パートナーシップ制度は地域によって異なる。LGBT理解増進法案の修正案は、差別は許されないという文言が「不当な差別」と変えられたことで、こうした様々な問題に対する解答を出しにくいものになるのではないかと筆者は危惧する。またこのような様々な問題は、理解増進と並行して、個別に検討していかねばならないと考える。その理由をスポーツ界から見てみよう。

 世界陸上競技連盟は今年、男性として思春期を過ごしたトランジェスター選手の女子種目参加を認めないことを決めた。これまでの規則では血中テストステロンの数値で出場可能であったが、より厳しいものとなった。当然、晩発性性別違和に該当する選手は出場することが出来ない。また世界陸連は、性分化疾患の選手についても、血中テストステロン値の上限の引き下げを決議している。国際水泳連盟の場合はさらに厳しい規定で、男性の思春期を少しでも経験した場合は出場することはできない。その理由は低年齢で五輪に出場するケースもあるからだと言える。

 水泳と陸上だけを取り上げたが、思春期以前の年齢で五輪代表となる種目もあれば、身体がぶつかる競技もある。それぞれの競技の特性上、個別に検討するしかないのが現状で、今後も異なる規定が競技ごとに採用されるであろう。勿論、大前提となるべきは差別を禁止することである。その上で、理解の増進と検討を継続しなければならない。それは一般社会でも同様であると考えられる。

・終わりに

 陸上競技ではスタートラインは皆一緒、つまり誰もが当事者だ。全員が当事者である以上、我々は複合的な解答を目指さねばならない。社会の複合的な解答を目指し継続すること、それはつまり、文化としての確立を目指すことなのだから。

[参考文献]

・一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『2現代の精神保健の課題と支援』中央法規出版 2121年
・岡田桂 他著『スポーツとLGBTQ+』晃洋書房 2022年

スポーツとLGBTQ+


・BBC Sport, Katie Falkingham. "World Athletics bans transgender women from competing in female world ranking events" https://www.bbc.com/sport/athletics/65051900 (2023年3月23日)

・参議院常任委員会調査室、特別調査室 中西絵里 "LGBTの現状と課題". 参議院 立法と調査394号 https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20171109003.pdf(2017年11月9日)