2024年3月23日土曜日

統合失調症について

 統合失調症の歴史、原因、症状、治療法等について以下述べる。

 統合失調症は脳機能が障害され普段とは異なった思考や行動が現れてくる原因不明の疾患で、かつては精神分裂病と呼ばれていた。クレペリンが1899年に提唱した早発性痴呆を基礎に、1911年ブロイラーにより、精神活動の各要素間のつながりが失われているという意味で精神分裂病とつけられた。日本では精神分裂病という名称にマイナスのイメージを抱かせることから、2002年、統合失調症に変更された。名称が変更されたことで、患者の社会参加に良い影響を及ぼすことが期待されている。

 統合失調症の生涯有病率は0.7~0.8%。主に10代後半から20代前半に発症し、男女差はない。症状は幻想や妄想、思考障害、まとまりのない会話や行動などがみられる陽性症状と、感情の平板化、意欲低下、自閉などの陰性症状とに大別できる。主に急性期に現れるのが陽性症状であり、慢性期には主に陰性症状が現れる。発症前、不安や緊張、不眠、性格の変化、倦怠感などの前駆症状が現れるケースもある。
 また統合失調症の病型は、解体型、緊張型、妄想型の3つに分類されていたが、DSM-5、ICD-11では削除されている。

 原因として有力な説に、ドーパミンの過剰な分泌により神経細胞の活動が活発になることが原因だとするドーパミン過剰仮説がある。他に、胎児期から幼少期にかけて脳の発達に異常があることが原因であるとする神経発達障害仮説、脳の脆弱性と社会的ストレスによって発症するとする脆弱性-ストレスモデルがある。さらにGABAやグルタミン酸などの活動が弱まることで発症する説など他にも多くの仮説が存在する。最近では「スパインの密度や大きさが変わること」1)が原因だとする仮説も出てきた。これらの仮説はどれかが正しいというものではなく、恐らく複数の原因によって発症すると考えられている。

 統合失調症と診断するには、ある程度の期間、症状が持続していることが必要とされている。例えばICD-10では、症状の持続期間が1か月未満の場合は、急性統合失調症様精神病性障害との診断となる。
 またDSM-5では統合失調症にスペクトラムの考え方が導入され、診断は五つの中核症状(①妄想、②幻覚、③まとまりのない会話、④ひどくまとまりのないまたは緊張病性の行動、⑤陰性症状)の有無、強さ、持続期間によって行うとされている。
 統合失調症には上記のような操作的診断はあるが、生物学的検査所見で診断を行う術はない。症状もほかの疾患に見られるものが多いため、従来診断であるブロイラーの四つの基本症状や、シュナイダーが提案した一級症状は現在でも参考にされている。

 治療は、薬物療法、精神療法、家族支援、精神科リハビリテーションが基本で、中心となるのは薬物療法である。
 妄想や幻覚など陽性症状に効果がある定型抗精神病薬(従来型)が使用されてきたが、副作用の錐体外路症状が問題となっている。そこで最近は副作用が少なく陰性症状にも効果がみられる非定型抗精神病薬(新規)も使用されるようになった。
 家族支援は、感情表出など患者に対する家族対応の改善や理解増進を援助するものである。また、統合失調症では残存症状や後遺症により生活障害が残ることがある。再発することも珍しくはない。精神科リハビリテーションは生活障害を改善することを目標としており、家族支援とともに再発予防において非常に重要である。

おわりに

 筆者は日々の業務を通じて、統合失調症患者を支援する機会があるが、支援開始当初は、多くの人が自分の病状については語ろうとしない。後に理由を聞くと「信じてもらえないと思った」と答える人が殆どである。統合失調症に限ったことではないだろうが、支援は共感を持って接することが重要であることを、自戒の念を込め最後に述べておきたい。

[引用文献]

1)林(高木)朗子(著)『「心の病」の脳科学』講談社 2023年 P.30

[参考文献]

1)一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟(編)『1精神医学と精神医療』中央法規出版 2021年
2)村井俊哉(著)『統合失調症』岩波書店 2019年
3)林(高木)朗子、加藤忠史(編)『「心の病」の脳科学』講談社 2023年

心の病」の脳科学