2024年3月20日水曜日

学習理論について

 学習とは「同じような経験を繰り返すことにより生ずる比較的永続的な行動の変容」1)のことであり、学習の基本的な様式である「条件づけ」には、古典的条件づけと、オペラント条件づけがある。

 パブロフの実験では、実験対象となった犬はベルが鳴るといった直接的には関係のない刺激によって条件づけられると餌が眼前にない状態でも唾液を流すようになった。これが古典的条件づけであり、無条件刺激(餌がある状況)に対して無条件反応(唾液を流す)のと同様に、条件刺激(ベルの音)に対しても同じ条件反応が生じるという学習様式である。

 このパブロフの犬の実験を人間に適用できることを証明しようとしたものに、ワトソンが行ったリトルアルバート実験がある。9か月の乳児リトルアルバートを実験対象としたもので、アルバートが白いネズミを見たら大きな音を与え続けた。するとアルバートは白いネズミやそれに似たものを見ても恐怖を示すようになった。この現象は恐怖条件づけとも呼ばれるものである。

 これに対してスキナーは、スキナーの箱と呼ばれる装置を使った研究でオペランド行動(オペラント条件づけ)を発見した。スキナーの箱の中にはレバーがあり、ブザーが鳴った時にレバーを押すと餌が出てくる仕組みとなっている。その箱に空腹のネズミをいれ、ネズミが偶然レバーを押すと餌が出てくる。試行錯誤を繰り返すうち、ネズミはレバーを押すと餌が出てくることを学習した。この学習をスキナーはオペラント条件付け(道具的条件づけ)とした。この研究は先行事象(ブザーが鳴る)、行動(レバーを押す)、後続事象(餌が出てくる)という三項随伴性に着目して行われたものである。

 さらにその研究では、行動は4つのパターンに分類されるとした。ある行動をした結果何かが生じたり増えたりすることでその行動の生起頻度が上がることを正の強化、行動の結果何かがなくなる或いは減少することでその行動の生起頻度が上がることを負の強化とされ、生起頻度が下がる場合をそれぞれ、正の弱化、負の弱化とされた。強化や弱化は、反応と結果との関係(行動随伴性)を表すものである。

 スキナーよりも前、問題解決の場面において失敗を繰り返すうちに解決が生じると考えたのがソーンダイクであり、問題箱と呼ばれる装置を使った実験を行った。問題箱の外に餌を置き、箱の中に猫などの動物をいれる。動物は試行錯誤の中で最初は偶然外に出られるが、この経験を繰り返すことで外に出る術を学習し箱から出るまでの時間が短くなるというものである。ソーンダイクはこの実験の結果試行錯誤学習を提唱。また試行錯誤の結果が好ましくない場合は、その状況との結びつきを弱めるという効果の法則を提唱している。

 これに対しケーラーは、課題状況全体に対する目標と手段関係の洞察や、解決への見通しなど内的な思考過程を経て問題解決を見出しているとする洞察学習を提唱した。よく知られた研究にサルによる実験がある。棒や箱など、道具を使わなければバナナをとることが出来ない状況で、サルが状況を把握し洞察することで適切な行動をとっていることを観察したものである。

 バンデューラによって提唱された社会的学習は、観察学習、またはモデリングとも呼ばれるもので、試行錯誤のように経験して得るものではなく、他者の行動を観察、模倣することでその行動を獲得する学習様式である。観察した行動の結果次第では、自身の行動頻度が変化することは代理強化と言われる。

・終わりに

 筆者はボランティアでパラスポーツ指導を行っている。ここまで述べてきたことを重ねてみると、パラスポーツの現場は、洞察、観察、模倣、そして試行錯誤の繰り返しであることに気づかされる。どれかが欠けても上達(学習)は見込めず、学習とは、まさにこの連続であるのだと実感するものである。

[引用文献]

1)福祉教育カレッジ(編)『社会福祉用語辞典第2版』エムスリーエデュケーション 2017年 P.63

[参考文献]

・福祉臨床シリーズ編集委員会(編)『心理学と心理的支援』弘文堂 2022年
・ジョエル・レビー著『心理学の基礎講座』ニュートンプレス 2020年

心理学の基礎講座
・杉山尚子著『行動分析学入門』集英社 2005年